ごはんにもお酒にも合う、タイのおふくろの味!【タイ】
屋台から高級レストランまで。どこにでもあるタイ風ディップ
タイ語学校に通っていた頃、先生がした質問でとても印象的なものがありました。それは、「海外に行っていたタイ人が、タイに戻って1番最初に食べたいと思う料理って、なんだと思いますか?」というもの。教室にいた生徒たちが口々に「ソムタム」「トムヤムクン」などと答える中、先生はにっこりと笑って、「外国人はみんな、そう思いますよね。でも、大抵のタイ人が海外で本当に恋しくなるのは、『ナムプリック』なんです」と自信満々で話してくれたのです。
その時点でタイ料理が大好きだったわたしですが、ナムプリックには“屋台の小さなおかず”という印象しかなく、その答えに驚いた記憶があります。ただ、それ以来意識して食堂やレストランを見渡してみると、高級、カジュアルに関わらず確かにどの店のメニューにもナムプリックが! そして多くのタイ人グループが、ひと皿はナムプリックをオーダーしていることに気がつきました。
日本ではまだあまり知られていないタイ料理ですが、ナムプリックとはオキアミを発酵させて作るカピと呼ばれる調味料に、唐辛子やニンニク、赤小玉ねぎ、ライムなどを加え、クロックと呼ばれる臼に入れ潰して作るタイ風のディップのこと。これとちょっとした野菜や魚、そしてごはんがあれば立派な一食になるタイの庶民の味です。簡単に家でも作れるので、日本の味噌汁と同様に“おふくろの味”のナムプリックがある家庭も多いそう。
具材を変え、さまざまな味を楽しめるところも魅力
上でご紹介したナムプリックは、「ナムプリックカピ」と呼ばれるもっともベーシックなもの。ほかにもさまざまな具材を使うことで、多様なアレンジが楽しめます。とくに有名なのが北タイ料理の前菜として登場することが多い、「ナムプリックヌム」と「ナムプリックオーン」(※写真2)です。
ナムプリックヌムは、プリックヌムと呼ばれる大きな緑の唐辛子を、炭火で焼いて潰したものがベース。すっきりとした辛さが後をひき、ケープムーという豚の皮をカリカリに揚げたスナックと一緒に食べると止まらないおいしさ! この組み合わせは北タイ以外のタイ人にも人気が高く、チェンマイの市場では大量のケープムーとナムプリックヌムを買い込むタイ人観光客の姿をよく目にします。
またナムプリックオーンは、ひき肉とプチトマトを使ったちょっと辛いミートソースのようなもの。まろやかな旨みとコクがあり、タイ料理初心者でも食べやすい一品です。唐辛子のすっきりとした辛さを楽しむナムプリックヌムが昔ながらの北タイ料理なのに対し、肉とトマトに油を加えるナムプリックオーンは、ミャンマー料理の影響を受けたものなのだとか。
どちらのナムプリックも、チェンマイのレストランはもちろん、バンコクなどの北タイ料理店でも食べられるので見かけたらぜひ試してみてくださいね。
このような地方の特色あるナムプリックのほかにも、焼き魚やエビを入れて旨みを加えたものや、タイ料理には欠かせない果実、タマリンドで甘酸っぱさを出したもの、酸味のあるタリンプリンという果実を加えたもの(※写真3)などなど、数えきれないほどのナムプリックがタイには存在しています。個人的に、日本人にナムプリック入門編としておすすめしたいのが、「ナムプリックロンルア」。甘く煮た豚肉が入っているので、辛すぎず食べやすいのが特徴。まろやかな旨みがあり、野菜はもちろんジャスミンライスにもよくいます。
チャーハンにアレンジしてもおいしい!
ごはんとの相性がいいナムプリックだけに、ごはんと合わせたアレンジメニューも。とくに、タイでよく食べられているサバ科の魚、プラトゥーを入れたナムプリックは、炒めてチャーハンにすると香ばしく食欲をそそる一品に変身します。(※写真4)
ただ辛いだけではなく、発酵調味料の旨みや野菜の甘味、唐辛子の爽やかな香りなどが複雑に絡み合い奥深い味わいを生むナムプリックは、まさにタイ料理の魅力をぎゅっと凝縮したような一品。一度そのおいしさに目覚めると、「海外から戻るとナムプリックが食べたくなる」タイ人の気持ちが、きっとわかるようになりますよ。
【記事執筆】
タイ料理ライター 白石 路以