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タイの田舎に泊まろう!Soi48の笑いと驚きに満ちたレコード収集の旅

タイ音楽の伝道師「Soi48」インタビューの後編では、ふたりのライフワークとも言えるレコード収集について聞いた。
>>インタビュー前編はこちら

『地球の歩き方』にも載っていない田舎を歩き、睡眠時間を削ってまでレコードを探す……未知の音楽と出会うための労力たるやすさまじいものだが、それ以上にこの旅路は笑いと驚きに満ちている。

イサーンの経済に影響を与える“Soi48マネー”の驚異、現地女子大生との怪しい関係、そしてタイ観光がさらに楽しくなる(かもしれない)豆知識まで、ここでしか読めないタイ情報をお届けします。

 

Soi48
<<Soi48プロフィール>>
タイ音楽を主軸に世界各国の音楽を発掘・収集する、宇都木景一(写真左)と高木紳介(同右)のDJユニット。DJとしての活動に加えて、日本で発売されるタイ音楽の監修、雑誌“CDジャーナル”でコラム『いってきます(ちょいとアジアのレコ屋まで)』の連載など、全方位でタイ音楽の普及に務めている。2016年秋公開予定、空族の新作映画『バンコクナイツ』では音楽監修を担当。ちなみにSoi(そい)とはタイ語で筋、小道などの“通り”を意味しており、「48」はふたりがタイに行き始めたころによく遊んでいたSoi(通り)の番号を示している。某アイドルグループは関係ない。

レコードの購入先は、半分以上が個人宅!?

――おふたりはタイ音楽を7インチレコード(シングル盤)で収集しているとのことですが、具体的にはどうやって集めているんですか?

宇都木景一氏(以下、宇都木) レコードの買い方って、いまの時代いろいろあるじゃないですか。インターネットの通販で買えるし、オークションサイトもある。Facebookで現地の人とつながって、買ってもらうこともできる。実際にタイまで足を運ばずとも、レコードを入手する方法はいくらでもあるんです。だけど僕らは、現地で足を使って探すことにこだわりがある。

――効率はよくないですよね。

宇都木 ええ、ハッキリ言って効率は悪いです。交通費も宿泊費もかかるし……それでも足を運ぶのは“ふだんは絶対に行けないところ”に行けるから。そもそも、バンコクのような大都市だと、もう世界中の業者やマニアがレコードを買い漁ってしまっているんですよ。だから僕らの選択としては、もうタイの田舎に行くしかない。外国人なんかめったに来ないから、現地の人もみんな優しくしてくれて、ご飯を奢ってくれたりもするんです。もちろんメインの目的はレコードを買うことですが、それを理由にして旅を楽しんでいる……っていう面もかなり大きいかもしれない。

高木紳介氏(以下、高木) レコードを集め始めたころは、田舎とはいってもちゃんと市場があるところに足を運んでいたんですけど、あんまり効率がよいとは言えなかった。で、そのうちそこら辺を歩いている人に「レコード持ってないすか?」って聞くようになったんです。最終的にはさらに面倒くさくなって、Tシャツを作っちゃいました。胸元に「レコード買います」ってプリントされたやつを(笑)。

――それで実際にみんな寄ってくるんですか?

高木 意外と集まって来るんですよ。それで「俺んちレコードいっぱいあるからおいでよ」みたいにフランクに誘ってくれるから、ふつうの民家へお邪魔してレコードを見せてもらう。

 

タイでの音楽収集はかなりカオス。しかし、それが楽しかったりするのだ。(写真はすべてSoi48のインスタグラムより引用)

 

――じゃあお店で買うことって……。

高木 あんまりありませんね。僕らの情報源は半分以上が個人宅(笑)。あとは地元のラジオ局とか。

――ラジオ局ってレコードを売ってくれるんですか?

宇都木 PCを使って音楽を流すのが一般的になったから、いままで使っていたレコードが必要なくなったんです。だから「それ売ってください」っていうと意外と売ってくれるんですよ。

――そうやって個人やラジオ局から入手するレコードは、だいたい幾らくらいするんですか?

高木 人、場所によるかな。田舎に行ったから安いというわけでもなくて、相場がわかっている人であれば1枚あたり500バーツ、1000バーツ(1バーツは約3.4円/2015年11月現在)とかけっこうな値段をふっかけてきますよ。

宇都木 その一方で、「もういらないから、全部持っていってくれよ」と押し付ける感じの人もいるから面白い(笑)。

“Soi48マネー”で家を建てたおっさん現る

――おふたりともすごい枚数のレコードを買うわけですよね。そうすると、イサーンの人にとっては、かなりのお金になるのでは。

高木 だいたい1回につき日本円で8万~10万とか使うから、イサーンだと月給くらいの金額になる。それだけのお金がたった1回の買物で手に入るわけだから、あっちの人も本気でレコードを集めてくれるんです。顔見知りのイサーン人に「今度行くから」って連絡をすると、「いいの集めておくよ!」って。

――1回の買物で月給分……生活レベル変わっちゃいますね。

高木 ええ、実際にそうなんですよ。あるおっさんの話なんですが、僕らが買物をしたあとすぐに、彼はすごい立派なエアコンを購入して……。

宇都木 つぎの機会にまたそのおっさんからレコードを買ったら、今度は部屋にデカイ液晶テレビが置かれて……。

――ふふふ、明らかに裕福になっていますね。

高木 そしてこのあいだ、ついに家を建てた! もちろん本業の仕事も頑張ったからでしょうけど(笑)。

(一同、爆笑)

宇都木 家を建てたのはさすがに僕らもビックリしたけど、クルマを買ったくらいの人はちょいちょいいますから。偉そうな話かもしれませんが、現地でレコードを集めると、誰もがハッピーになれるからうれしいんです。現地の人は思わぬ臨時収入が得られて、僕らはレアなレコードを大量に入手できる。これぞ、ウィン・ウィンの関係ですよね。

 

レコードを探すときは、ポータブルのアナログプレイヤーを持ち込んで、その場で聴かせてもらうこともあるんだとか。(写真はSoi48のインスタグラムから引用)

レコードのために渋谷109でギャル服を買い、メルマガも登録

――家を建てたおっさん以外にも、強烈な出会いなどはありますか?

宇都木 元歌舞伎町のホストっていう異色な経歴のイサーン人でいて、その彼がいま帰国してタイで僕らのためにレコードを探してくれているんですよ。

宇都木 すごい強烈なキャラクターで、ホスト時代にカラオケを通じてヒロシ&キーボーの「3年目の浮気」とか吉幾三の曲とか、いわゆる日本の歌謡曲にハマって、そういった曲でDJを始めたんですよ。でも、とある理由で強制送還されてしまった。そしたら、「日本のレコードを送ってくれ!」と僕らにコンタクトを取ってきたんですよ。

高木 だから僕らも「もちろん、やってやるよ! でも、そっちもタイのレコード集めてくれよな!」って。

――なんだか熱い友情ですね。その元ホストの男性は、どんなレコードを欲しがるんですか?

宇都木 中森明菜、松田聖子、谷村新司……。

――ふつうの日本人よりも、よっぽど渋い!

高木 しかもレコードじゃなきゃダメ。やっぱりDJ気質が抜けないんでしょうね(笑)。あと、その元ホストの以前には、女子大生にお願いしていた時期もありました。

――とてもレコード収集に関する話とは思えぬ展開ですね。

宇都木 その当時、僕らがタイに行ったときによく泊まっていたホテルで出会ったんですよ。そのホテルは高層階が通常の住居になっていて、ロビーでたまたま仲良くなって、協力してもらうようになったんです。僕らでは参加できない、現地のオークションで落札してもらうとか。

――さっきの元ホスト同様、当然見返りは必要なんですよね。

高木 もちろんですよ。「109で服を買ってきて!」って言われたり、益若つばさプロデュースのつけまつげを買ってあげるとか(笑)。つけまつげは……合計で50個くらい運んだかな。バンコクのショッピングモールは本当に何でもある。物流網も豊かになったタイ人が何を欲しがるか、何がタイで買えないのかを知るのも楽しいんですよ。

――タイ市場向けのバイヤーみたいになっていますね。

宇都木 僕なんて“メルマガ会員限定アイテム”みたいなやつを頼まれたことがあって、ギャル向けのお店まで足を運んで、店頭で書類書いたことありますよ。いまだに割引クーポンとか届くんですから。

(一同、爆笑)

 

109にまで足を運んで手に入れた苦労の結晶たち。もちろん、これはごくごく一部。

Soi48が教える、ネクストレベルのタイ観光

――話を聞いていると、ふたりとも本当に楽しんでレコードを集めていることがわかります。

高木 でも、体力的にキツイところもあるんですよ。朝市は人が集まる前から行かなきゃいけないから、朝は3時とか4時起き。せっかく海外に来たのに、お酒もほとんど飲まない。

宇都木 さらにナイトマーケットにも行かなきゃいけないから、深夜1時くらいまでレコードを探して、翌日は朝市でしょう……。

高木 1時間とか2時間しか寝てない(笑)。もう、ほんと自分でもバカかと思いますよ。

宇都木 だけど楽しいからやめられないんですよね。レコード集めたり、行けないところに行くのもそうだけど、そのほかにもタイの渋滞地獄をいかにうまく切り抜けるかとか、そういうことを考えて、うまく実行できただけでもうれしい(笑)。

――ガイドブックに載っていないところもたくさんご存知だと思いますが、とっておきの観光情報はありますか?

宇都木 タイには“BTS”っていうスカイトレインの路線があって、有名な観光地はだいたいその周辺にあるんですね。だから逆に、僕らがおすすめしたいのは“MRT”っていう地下鉄の沿線。BTSは日本で言えば山手線に近いメジャーな路線だけど、MRTはどっちかっていうとタイ庶民のためにあるんです。つまりどういうことかというと、MRT沿線の街は会社帰りの人のために屋台が遅くまでやっている。値段も都市部に比べて安めですしね。具体的におすすめなところだと、ラップラオとか……。

高木 それ普通の観光客は行かないでしょ。

宇都木 いやいや、行けるって!

――ラップラオというのはどんなところですか?

高木 日本で言うところの東京・赤羽ですかね。

――それはちょっと、難度が高いかもしれないですね(笑)。

宇都木 じゃあ、ホイクアンとか?

高木 うーーん、いいところだけど(笑)。ホイクアンっていうのは、バンコクで夜のお仕事をしている女性が、仕事を終えたあとに遊ぶことが多いエリア。実際に住んでいる人もたくさんいて、夜のお仕事が終わったあとにご飯を食べたり買物をしたりとか、まあすごい面白いんですよ……でも、オッサン向けかな。

――すごい面白そうなんですけど……この記事が載る“日本エスニック協会”のサイトって、たぶんそこら辺の読者層は多くないですね(笑)。

宇都木 いやいやタイの庶民が食べている現地の料理を食べられるエリアではあります。観光地巡りに飽きたタイ好きにおすすめです。まあ、そこらへんは追々……もしまたこういう機会があったときに、バッチリお伝えしますよ!

 

あなたの知らないタイが、まだまだあるのだ!(写真はSoi48のインスタグラムより引用)

 

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[info]
Soi48が選曲・解説・装丁を担当した新譜『ラム・クローム・トゥン~幻の白い鳥:エッセンシャル・パイリン・ポーンピブーン』が、2015年12月12日にエム・レコードから発売中。購入はこちらから

 

更新日:2015年12月12日